Vol.20
 『失われた楽園』(神との対話)
 バロータはまず、神、イルは何処にいるのか?また神の国は何処にあるのか?と聞くように忠平に言った。忠平は鏡の前に立ち、鏡を見つめてバロータの言った質問を考えた。直ちに答えが返って来た。
『私、イルは、ここの下、井戸の中の世界にいる。私はこの星の者がいう、シリウスという星の近くから来た。だが、そこは神の国ではない。神の国の場所は、あなた方には理解しにくいだろう。なぜなら、全ての世界は神の国の中に存在するからだ』
 バロータは次の質問を忠平に告げた。忠平は鏡を見つめた。
「イルは神ではないのか?神は他にいるのか?」
『私は神だ。神の一部といったほうが分かりやすいかも知れない。もちろん、あなた達も神なのだが、そのことに気付いていない。この星の人がいう神と、私のいう神とに少し概念のずれがあるから、人間が神である事に気付かないのかも知れない。気付くには、神とは何かを知る必要がある』
「神とは何かを教えて欲しい」
『よろしい、説明しよう。だがその前に、この世界の成り立ちを説明しておいたほうが良いだろう』
「世界とは?」
『世界とは、宇宙を含めた全ての世界のことだ。初め、世界は無であった。均一な、何もない時空の一点から爆発、波動といったほうが良いかも知れない、変化が起こり、世界は始まった。その変化は急速に拡散し、時間と空間が生まれ、広がり始めた。今から50億年以上前のことだ。
 起こった波動には全ての周波数が含まれるが、周波数の低い波動は、三次元の空間を生み、物質として形を現わす事になった。これが宇宙だ。物質として形のとれない高い周波数の波動は、他の次元と一つの意識体となった。この意識体が神だ』
「意識体とはどんなものなのでしょうか?」
『意識体を説明する事は難しい。あなた方の意識もその一部だということはできるが・・・。じつは、波動そのものが意識なのだ。この世界は波動、意識が広がることによって生まれた。つまり、意識が世界の形を決め、世界の意志となっている。だから意識体を神ということができるのだ。人間の意識も意識体の一部だ。だから私と話しをすることができる』
 イルの話しは三人には難しかった。学者のバロータは、イルのいう神は、いままで自分が思っていた神の概念と少し違っていることと、この世にある全てのものが意識体の意志によって全て繋がっているらしいということは理解できたが、ただ、実感というものは全然なかった。忠平はイルの話を聞いて、自分の上の方に何か大きな力と意志があるのを感じて、安心感と共にホワッと暖かいものが心に広がった。ロロは何も理解できなかったが、イルが悪意を持っていないことが分かってホッとしていた。忠平が自らイルに質問をした。
「イル、あなたは井戸の中に居ると言いましたが、祭壇にある像はあなたのお姿なのでしょうか?」
『そうだ、私だ。しかし、神の姿ではない。神は形を持たぬ。周波数が高すぎるので、物質として存在することは出来ないのだ。だから私のように物質化しているものを通して神の存在を示すことがある』
 バロータがまた質問を忠平に伝えた。
「イル、あなたはいつからこの地球にいるのですか?そして地球で何をしていたのでしょうか?」
『私は2万年以上この地球にいたことになる。しかし我々は、およそ100万年以前から地球を観察して来た。そして50万年前から人間の進歩に関与し始めた。関与するといっても人間の持っている可能性を引き出せるように刺激を与えただけだが・・・。50万年前の人類の潜在能力は今の人類とそう違いはない。ただ赤ん坊のまま一生を終えていたに等しい。赤ん坊が何も教育をされないで大人になり、その大人が子供を生み育てたとしよう。そうやって続いて出来た社会の進歩は非常に緩やかだ。生活は本能の域を出ることは余りない。人類は数十万年経っても大した進歩はなかった。50万年前、我々は人間の持つ欲望に少し刺激を与えた。人類は生活への欲望が大きくなるに連れ加速度的に進歩を始めたのだ』
「あなた方が我々人類を進歩させたのですか?」
『我々は人類の潜在能力のスイッチを押しただけだ。10万年ぐらい前、やっと我々の存在に気付き、接触できる人間がぼちぼち出始めてからは、求められたことに対しては手助けをして来たが、こちらから手を出したことはない。今の、この人間社会は、人類自らが作り上げたものだ。この先、人類が栄えるか、滅びるかは人類の持つ能力、可能性の中にあるといっていい』
「ここの遺跡はいつ頃のもので、ここで暮らしていた人たちはどうしてしまったのですか?」
『1万2000年前の大異変以来この都市は放棄されてしまった。それまでここはスンダランドの楽園として長い間栄えていた。大異変でスンダランドは海に水没してしまい。高いところが島々として残った』
「1万2000年前に起きた大異変とはどのようなものだったのでしょうか?」
『あの大異変は人為的なものだった。戦争だった』
「どうしてそんな大変な戦争が起きたのでしょうか?」
『50万年前に育ち始めた人間の欲望はしだいに大きくなり、それに連れて技術、文化が急速に発達し始めた。技術、文化が発達すると欲望もまた大きくなった。そして2万年ぐらい前に人類は大きな都市で暮らすまでに進歩した。欲望というものは充足するとさらに大きくなるという果てしの無いものだが、自らが与えないと満たされないという種類の欲望が欲望の肥大を制御していた。その欲望のことを人間は愛と呼んだ。愛を持った人類は楽園を築き平和に暮らしていた。
 しかし1万5000年前になると愛を捨て欲望の肥大に身を任せる者たちが現れ始め、その種の人々が力を持ち始めた。愛に生きる人たちは、平和を乱す彼等を恐れ嫌い楽園から追放した。楽園に平和は戻ったが、追放された者たちは楽園の外に国を作った。楽園の外の国では技術がさらに発達し、彼等は肥大した欲望を満たすために戦いを好むようになり、他国への侵略と略奪を始めた。楽園に暮らす人たちは、侵略を防ぐために防御技術を発達させ、完璧な空間防御施設を造り上げて侵略者を防いだ。しかし侵略者は異星人と手を結ぶことにより空間防御施設を破壊する武器を手に入れ、そして1万2000年前、その武器を使った。その結果、多くの空間と人類が跡形も無く消え、地球規模の大異変が起きた。楽園も、侵略者の国も破壊され、両国ともほんの少しの人間だけが生き残った。
 生き残った人たちは、未開な土地に逃れ、土着の人たちと暮らし始めた。そして、それらの地に国ができるまでにおよそ5000年の月日が経った。あなた方はその国々の子孫ということになる。しかし今また欲望が肥大し始めているようだ。だが私は、愛と欲望のどちらが良い、悪いとは言うことが出来ない。なぜならそれらが人間の持つ属性だからだ』
 今度は忠平が質問をした。
「日本はこの前、清国と戦争をし、またロシアとの戦争がありそうです。そして、バロータさんの話ではヨーロッパでも戦争が起こりそうだと言っています。人類から戦争を無くすことは出来ないのでしょうか?」
『この問題は、人類自身が解決しなければならない問題ですが、欲望のコントロールが大事だと言うことです。欲望が愛を上回ると争いが起きやすくなるのでしょう。愛を持ち続けるには、生きるということの意味を感じ、理解することです』
「生きる意味を感じるとは?」
『わかりました。特別に教えましょう。忠平は右手を鏡に置き、二人は忠平の左手に触れ、心の力を抜きなさい』
三人は言われるままに手をつなぎ目を閉じた。
(次回に続く!)
 楽園の放浪者、新年の御挨拶
あけまして、おめでとうございます。
昨年は、だらだらと続く『楽園の放浪者』におつき合い頂き有り難うございました。
今年も引き続き、だらだらと行きますので、よろしくお願い申し上げます。