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Vol.1
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| 6月始め、楽園を求めてこの島にやってきた。 「南の方、ハワイの近くらしいんだけれど、夢のような島があるらしいんだ。夢の島といったってゴミの島じゃないよ」去年の忘年会の席で、かなり酔っぱらっていた友達が、突然マジな顔で教えてくれた。彼の話によると、どんな自然も一とおり揃った大変コンビニエンスな島で、自分の住みたい場所が必ずどこかに見つかる、しかも土地は只みたいに安いらしいと言うことだった。座った目に戻った彼は「美味しい島には落とし穴があるかも知れないからね、気を付けて!」と手を振って帰っていった。その島の名はポレポレ島。 |
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ゴーギャンは「人は何処から来て、何処へ行くのか」と散々悩んでフランスからタヒチにやって来た。といっても、場所に悩んでいたわけではなく「人は如何に生きるべきか」という哲学的な答えを求めてタヒチにやって来たのだ。私が悩み、考えていることは「楽園とは?」である。私の場合もたんなる場所探しではない。哲学的な解答を求めているのだ。「じゃあ、わざわざ探しに来なくても、感性を磨けば場所は何処でもいいんじゃないの」と言われれば真さにそのとおりで、楽園の達人なら何処にでも楽園を見つけることが出来るだろうし、どんなものが楽園の入り口なのかも見分けることができると思う。しかし未熟者の私にとっては環境がかなりものを言うわけで、まずは楽園的空間に身をおいて、そこでじっくりと哲学しながら感性的な解答を究明する。未熟な求道者は楽園の達人になるためのスタンダードコースを選んだということだ。ということで、私のポレポレ島、楽園探し、放浪の旅が始まったのである。 |
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| この島に来て私がまずやったことは、キャンピングカーを手に入れること。島をじっくりと見て回るのには最適と思ったし、なにより私は貧乏旅行が好きなのだ。今までに大名旅行はしたことがない。いつも金が無いのでしたくても出来なかったのだが、幸いにも、したいと思ったことが無かったのでフラストレーションを感じたことはない。手に入れたのは、DATSUNのピックアップトラックの荷台にシングル葺きの小屋を積んだ、真さにバガボンド仕様の車だ。窓にはフリルの付いたピンクのカーテンが下がっている。小屋の中は1坪ほどの広さだが「立って半畳、寝て1畳」を信条とする私には十分だ。見た目はかなりのボロだが、雰囲気は最高。しかし困ったことが一つあった。古い木造の小屋なのでゴキブリがチョロチョロしていたのだ。寝袋の中で、モゾモゾ動き回っているゴキブリと一緒に寝ているところを想像したら鳥肌が立った。すぐに殺虫剤を焚いて退治した。小屋の中を大掃除して車の調子をチェック、タイヤとオイルも新しいものと交換したので、これで今のところ問題は無いと思う。 |
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6月21日
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| 今日はいよいよ出発だ。支度はまあ適当に整っているはずだ。足りないものが出てきたらその都度手に入れればいい。それより問題は何処に向かって出発するかだ。放浪だから何処に向かっても構わない。だからかえって決め手がない。今はThe Cityのクルマ屋にいる。この店は車輪が付いて動くものなら何でも扱っている。我が愛車はここの親爺から手に入れた。親爺さんの手作り、彼の愛車だったのだ。ゴキブリを退治したとき親爺さんは一瞬寂しそうな顔をしていた。島に来て以来今日まで、譲り受けたこの車に寝泊まりしていた。ここの親爺さんとは妙に馬が合う。少々歳を食っているが素敵な人だ。「今日は夏至だからサンセットビーチに行ってみろ、沖の島の真上に夕日が落ちるところが見れるぞ」と親爺さんのアドバイス。サンセットビーチの後ろにはちょっとした小山があって、その上も絶好のビュ−ポイントになっているらしい。島と小山は北回帰線上にあるという。今日はその山の上で夕日を見ることに決めた。北に向かって50kmほどだと言うので、親爺さんと別れのお昼を食べてから出発することにする。オレのおごりで小さいけれど気持ちのいいレストランに入った。この町は何処に行っても、どの店に入ってもホッとするような気持ちの良いところばかりだ。レストランは「クッチーナ・タント」という名前の店で、魚介類をメインにした料理を出してくれる。一回しか入ったことはないが、美味しかったことは当然として、オーナーシェフのおばちゃんがチャーミングなのだ。小太りでにっこり笑顔がすっごくキュートで、善い魔法使いといった感じ。オレが金持ちじゃないことを一瞬に見抜いて気持ちのいいサービスをしてくれた。きっと、いつでも誰にでも、気持ちのこもったサービスをしているんだろうと思うけど・・・。まだ、島で一番大きいこのCityと呼ばれている町しか知らないけれど、こんなに居心地のいい所は初めてだ。言葉では表現しにくいが、肩の力がスルスルッと抜け落ちてゆくような、和んだ空気、風、雰囲気が町中に流れている。早くもこの島にすっぽりとハマりそうだ。友達が最後に言った「落とし穴」という言葉が頭をよぎる。 |
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今、大小重なるように並ぶ二つの島のちょうど真中に、夏至の太陽が沈もうとしている。夕陽評論家と呼ばれている友人がここに居たら何て言うだろう。オレはただボーッと眺めているしか能がない。夕日を眺めていると胸がきゅっとなる。ちょっぴり寂しいのだ。オレは孤独に強い男でありたいと思っている。でも寂しいと思う心は無くしたくない。だから我慢強い男になればいいと思っている。夕陽評論家、クルマ屋の親爺さん、レストランのおばちゃん、みんなの優しい顔が浮かぶ。山頂から海を眺めるオレの顔は、酒も飲んでいないのに真っ赤に弛んでいる。 |