パドリングの手を止めた4分間


――嫌な気分だろうね。

もちろん。周囲にいる人を見渡しても、全員はまっている。その前から、波が強くて酔うし、ボードに顔をぶつけて鼻血は出るし、もうヘロヘロ。何か口に入れないとエネルギーがなくなるから食べるんだけどすぐ吐くし、さんざんだったんです。

それに加えて、はまって進まない。精神的にも肉体的にもがくっときて、肩がいつものように動かなくなったんです。それでも、何とか体を動かし続け、1時間半過ぎたときに、僕の横を、猛烈にバトルしていたカリフォルニア人が抜けていったのです。僕はバトルには自信があったのに先を越されてしまった。その瞬間、自分の体力・気力に限界を感じてしまったのです。

今までの経験の中で一番最悪でした。ギブアップも考えなきゃと思いました。僕は今までのモロカイレースでスタートしてゴールするまで一度もパドルする手を止めたことがなかったですが、手を止めてしまった。その上ボードをまたいでしまったんです。ショックでしたね、すごく大きなショック。

残りの時間は1時間5分(8時間以内にゴールしないと失格になる)。「ちょっと考えさせてくれ」と4分間ぐらい止まって考えたんです。止まったら、後ろに下がるわけですよ。ボートが小さくなって「タクジ、来-い」という声だけが聞こえてくる。

――その4分間で何を考えていたの?


棄権した場合、今回のモロカイが次回にどうつながるか考えました。僕は世界1位になるためにやっているから、そのステップアップにどうつながるか思いをめぐらせた。やる気もないし、がっかりしている今の状態で、残り1時間でゴールまで行けるか行けないか、チャレンジする価値があるか考えたんです。後でステップアップになるならやるし、ならないなら止めようと。

おもしろいもので、止まって考えていると、体の痛みが引いてくるんですよ。首の痛みは減るし、意識もはっきりしてくる。そうすると、やる気も出てくる。

でも、ステップアップにならないから、今回は負けて帰ろうと考え始めたら、急に悔しくなった。何でこのコースをとったんだろう。何でおかしいと気づいた瞬間に戻らなかったんだろうと。考えれば、考えるほど、こんなんで帰れるかという気持ちになり、「こんちくしょう!やってやろうじゃないの」と闘志がわき上がってきた。

正直、やるからには1時間終わって死んでもいいと思いました。ボードには、ドリンクボトルとか、栄養補給のためのパワージェルが付いているんだけど、それも錘になるから全部捨てました。顎のところにパット(発砲スチロール)が付いてるけど、それもいらねえと(笑)。目も痛いけど、サングラスも捨てた。

そのときは、自然にケンカ売ろうと思った。それまでのレースでは、自然と一緒に進めばよかったのが、今回はそれをやったら先に行けない。結局、自然が後押ししてくれるときは、自然と一緒にいけばいい。ときとして、自然は立ち向かってくることもあるというのを今回初めて知ったわけですよ。そしたら、もう、立ち向かっていくしかないと思ったんです。


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