4.

さてこのタイ旅行もついに3日目!俺も独り立ちする日だ。
バンコクから南へ80キロほど行った所にあるリゾート「パタヤー」。一体どんなとこなんだろう!?
期待に胸を躍らせつつ、自分に「喝」を入れていたが、朝飯〜ってことで、お昼前に近所のラーメン屋(らしきもの)で、ラーメンを20バーツ(60円)で食べる。
そんな感じで腹ごしらえをしてからの出発。
そして約2時間後、オヤジの車で爆睡こきつつ・・パタヤーの街に着いた。

家族を乗せたオヤジの車は、パタヤーの中心部のすぐ近くまで俺を送ってくれた。
思いつきで出かけたこのタイ旅行だったが、このオヤジはリアルなタイの家庭や習慣、お金の価値、エピソードなど、この短い観光旅行ではわかるはずのないことを色々教えてくれた。

「本当にありがとう!杉本さん。いつかまた遊びに来ます」

車を降りると、俺は深くお礼をしてそのオヤジとオヤジの家族と別れた。

杉本さん一家どうもありがとう。お幸せに。
さ、タイに着いて3日目!旅も後半。ここからは誰にも頼ることはできない。気を引き締めての再出発だ。

パタヤー。東京から見る丁度湘南海岸のような存在であろうか。R134みたいな海岸線の道路が、ずーっと続いていて、その道沿いにはいくつものホテルやお店、バーなどが並んでいる。
聞くところによるとこのパタヤーは、ベトナム戦争の時、兵の休養地、娯楽地として栄えた土地らしい。
そのなごりか現在では欧米人の観光客がたくさん遊びに来るらしい。
ま、なんにせよこんな真夏の暑い時期に海のリゾートに遊びに来たのはナイスな選択だった。海沿いの景色もかなり気持ちがいい。
タイのリゾート
パタヤビーチ

ところでこの日(4月12日)は本当に偶然だったのだが、丁度タイのお正月(のようなもの)の前日という記念すべき日であった。

正確にはお正月ではなく「ソンクラン」というお祭りらしい。ノリ的にはお正月のようなもの。
4月13、14、15の3日間は国を挙げてこの「ソンクラン」というお祭りを祝うらしい。
詳しいことはわからないが、タイで一番暑く雨が少ないこの時期、豊作を願って雨乞いの意味を込めて、「水かけ祭り」と言われる祭りを楽しむ。いわゆる水なら誰にかけてもいいのだ。
丁度俺が帰国する明日はお正月当日。心しておかなければならない。明日はびしょびしょかも・・・。

そんな思いもつかの間、しばらく歩き繁華街に着くといきなり大量の水をかけられた。
かなりフライング。「おいおい!今日はまだ大晦日だろー!聞いてないよ〜」と思いつつも、かかってくる水に怒る訳にもいかない。お祭りだから水をかける人に文句なんかもちろん言えない。
みんな人に水をかけて、ただただニコニコしている。
せめてホテルで落ち着いてからにして欲しかったが、そんなことはこのお祭りには関係ない。
水かけ祭りは容赦がない。意表をついた攻撃に俺の目は点!
しかも予想以上に大量だ。ホテルに着く頃に俺は全身ビショビショになっていた。
一人旅再出発ということで少し緊張気味だった俺の高鳴る胸の内は、いきなりの、この水鉄砲攻撃でもろくも崩れさった。
水かけ祭。
おっと、もう既に始まっていた!

そんな状況の中俺は、いくつかホテルを探したのだが、どのホテルも全部満室状態!。
こういうところだけは日本の常識と同じらしい。日本もお正月の行楽地のホテルは混んでるのと一緒。
とりあえず手当たり次第そこらじゅうのホテルをあたってみると、とっても高そうなホテルに空きがあった。
一泊1000バーツ。タイの感覚でいうと数万円!日本じゃ絶対泊まらないような高級ホテルだが日本円にすると3000円。

まーそれはそれはテレビ付きで綺麗なシーツにくるまれている豪華なホテルでした。
しかしそんなところに泊まる俺はTシャツに短パン、おまけにリュックという、典型的なバックパッカースタイル。おまけに水かけでビショビショに濡れている。フロントの人は笑っている。
部屋についてまずしたのは、濡れた服をハンガーに掛けること。そしてポケットに入れておいて、濡れてしまったお札を乾かす作業。予想に反していきなり水かけの洗礼を受けた俺のパタヤー一人旅は、こんな状況から始まったのであった。

さて一通り作業を済ませると、いざパタヤーの街の散策に出かけなければならない。
しかしここで問題のは、水かけ祭りの真っ最中だということだ。
もはやこの街では「外に出るなら水かけは覚悟でね!」みたいな常識がある。
びしょぬれ覚悟の格好に着替え、いざホテルを出ると、右を見ても左を見ても、どこを見ても水鉄砲を持った軍団が、今や今やと獲物を探して待ち構えている。

さ、ここで基本的な水かけのスタイルをここで説明しておこう。
まず場所!これはお店の前。特に飲み屋(バー)が多いが、各お店の前にでっかい水がめ(ポリタンク)がある。
そこには絶えずホースで水道水が流れている。そのタンクから水を水鉄砲に吸入して発射する。

次に水鉄砲。これはいわゆる日本でいうような、あの小さな拳銃スタイルの水鉄砲ではない。
大きさ太さなどいろんなサイズがあるが、平均的に長さは1メートル以上あるだろう。
大きいのだと大体1回の発射につき1リットルは水を貯めて発射することが出来る。
ここから水を一気受けると・・・ズブ濡れになる・・・というか痛い。
スゴイ人だと背中に水タンクを積んで、鉄砲は常に携帯しいつでもどこでも発射できるように、スタンバっているという究極の水かけお祭りマンもいる。

そしてルール。これはいわゆる常識でわかる範囲のルールだ。
基本的にどんな人であろうと水をかけてかまわない。国籍、肌の色、年齢、性別は問わない。
目の前にいる人なら、誰でもOK。しかし仕事中の人、老人、赤ちゃん、嫌がる人にはかけてはいけない。
もっとも老人赤ちゃん以外はかけられているパターンが多いのだが・・・。
ま、簡単に言うとこんな感じであろう。想像してみてよ!大の大人が水鉄砲でほとんど戦争ごっこ状態。
しかもパタヤーの街中。いや少なくとも明日にはタイの国中がそうなるのよ。
国を挙げて水鉄砲大会!これはスゴイ!っていうかかなり笑える。

ホテルを出てからの俺は、そんな状況を観察しつつ多少ひるみ、しばらく動けずにいた。
着替えたばっかりだし、さっき濡れたばっかりだし・・・。しかしそんなことを言っていたら、ここから一歩も動けない。じっと待つことにあきらめた俺は思い切って水鉄砲を避けるように走り始めた。
しかしそんな走るくらいの微力な抵抗はもはや何の意味も持たない。
数十秒後、俺は再びビショビショになっていた。

水かけ祭。多国籍な戦争勃発中!

もう、一度濡れてしまうと気分は楽なもの!余裕をかましてなんでも来い状態!。
歩いていると目の前に「BAR」の看板が見えるので、「とりあえず一人旅のお約束はビールっしょ!」ってことで、オープンカフェのようなBARで飲みはじめた。お店にもかかわらず飲んでいると水鉄砲攻撃を受ける。
おまけに「こっちへ来い!一緒にやろうぜ!」とのジェスチャー付きだ。
一人旅、言葉はわからない、誰一人として知らない、ルールもわからない、さすがにすぐ参加するのにはたじろいだ。
目の前はちょっとしたプチ戦争状態だ。タイ軍、ドイツ軍、中国軍、アメリカ軍、フランス軍、エトセトラエトセトラ・・・。
しかも各国どの軍隊も少なくとも2人以上同盟を組んでいる同士はいるようだ。
日本軍は俺一人!果たして大丈夫なのか!?負けないか!?
・・・とそんなことを考えてうじうじしていたが、そんなことを考えるのが馬鹿らしくなった。
ついに孤独な日本軍の参戦である!