by ichi (endou@site.ne.jp)
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ホテルを出て空港目指してA1を走っていくとその途中のバナナ村に行き当たる。村の出口あたりを右に曲がって椰子のジャングルの中を少し走り適当なところで左に曲がりジャングルを抜け出すと急に視界が大きく広がる。真っ平らに広がる白い砂浜とマヌルルラグーンと呼ばれる比較的大きなラグーンの繊細な織物を連想させる水面の一部が水平線となるまで広がっている。一瞬写真の中にいるような気にさせるほど静かな場所に、全くそぐわないモノが一団となって置かれている。それは錆びて赤黒い塊となったトラックやブルトーザーの残骸だ、その昔イギリスがA1を作る際に持ち込んだ重機車両が無惨にも放置されている。

左奥がマヌルルラグーン、左側の道をラグーン沿いに走って向かいの椰子林を越えた先に塩田がある。(と思う...)


この島の表層は珊瑚礁が長年の風化で変化した石灰質で出来ている。なかなかイメージするのが難しいのだが、石灰質のその下は堅いスポンジのようになっていて、海水に満たされている。雨となって降り注ぐ真水はスポンジの中に吸収されていくが、海水と比べて比重が軽いので、スポンジの上部に浮くような形で真水の部分が形成される。これをレンズウオーター(断面がガラスレンズの凸面鏡を逆さにしたような形になっているのでこう呼ばれる)と言い、珊瑚礁だけで出来た島では貴重な井戸の役割を果たしている。雨水がレンズウオーターに到達する間には浄化作用をもつ層が一切無いので、赤錆で腐れきった鉄屑から出る錆水はそのままレンズウオーターに混入されてしまう。そんなことは当然知りつつも放置し続けている、その神経は普通の人間には到底理解できない。

放置された車両、イギリス政府は片づけることを公約している。


その赤錆の鉄屑を横目にラグーンの縁をしばらく走ってから、また椰子のジャングルに進入する、そのジャングルを抜けた先はツーリストにとっては不確定な地帯が広がっている。これといった標識もなく雨や潮の満ち引きに応じて出たり消えたりするタイヤの跡を頼りに進むことになる、部分的に黒色の石灰質でコーティングされた硬質な地盤の場所もある、ここではタイヤの跡も見えなくなるので、そういう場所に入ったら引き返すのが最善の策だ。そんな危険地帯をしばらく走ると運良くソルトサイトの大きな倉庫が見えてきた。


12月の塩田はこれから始まる雨期に備えて休耕中だ、底部を掃除して目地工事などがされた四角いプールは説明がなければ何をするモノかわからないかもしれないが、底をよく見ると自然に出来た塩の結晶を見つけることが出来る。この事業を始めた人は島の中で一番塩づくりに適した場所をしっかりと選んでいたのだ。

マヌルルラグーンに面した塩田の脇の浜辺は真っ白な潮の花が出来ることで有名だ。ミネラルやプランクトンを豊富に含む海水が浜辺にさざ波となってうち寄せた時に出来る小さな泡が風によって集められて、一面の泡の塊を作り出す。塊はやがて風に押されてコロコロと転がり始める。その先の使っていない塩田に入り込んで身動きが出来なくなった巨大な泡の塊は生き物のようにブヨンブヨンと波打っている、それが夕日に照らされている様は幻想的というより不気味な感じがすると言った方が正直かもしれない。泡というのは洗濯機の中で渦を巻いていたり、汚れたどぶ川の小さな段差でモコモコしていたりする汚らしいイメージがあるからだろうか、そんなモノとは無関係な潮の花を美しいものと感じるまでに少し抵抗があることを寂しく感じる。

自然に出来た塩の結晶

一面の泡の固まりがうごめいている。


そうは言っても、泡が風に飛ばされてコロコロと転がって行く様子がとても可愛らしくて、追っかけたり、蹴飛ばしたりして遊んでいるうちに夕闇が迫ってきた。ヤバイ、トラ帰るぞ!と相方に一声かけて急ぎ足で車に戻る。気がつくと足が膝まで泡だらけになってしまっていて、ルーズソックスをはいているみたいな気持ち悪い絵面になっている・・・それを見て大笑いのトラを脇目にエンジンをかける、例え満月であっても、ここで暗闇に飲み込まれたらホテルに戻れる自信はないのだ。とにかくA1目指して黒いシルエットになりつつある椰子林を目指して疾走する。しかし、ここで欲が出た・・・そういえばこの先を曲がらないでまっすぐ行けばA2に出られたはずだ・・・A2からでもホテルには戻れるし、きっとこっちのルートの方が面白いだろう・・・こんな感じで欲を出すと失敗するという貴重な記憶はこういうときに限って行方不明になるようで、足は素直に反応してアクセルを踏み込んでいる。泡が綺麗だと思えない先入観も、欲を出すと失敗するという情報も同じ脳味噌の中にあるはずなのだが、ここぞと言うときに役に立った試しがない。

風に飛ばされて転がる泡、奥に見えるのは塩の倉庫。


おかげでまんまと道に迷った、取りあえず脳味噌のせいにしてみるが、つまりは僕が悪い。ヘッドライトの先にそれといった特徴もない分かれ道が何度となく椰子林の中に浮かび上がるたびに、それをテキトーに右に行ったり左に行ったりしてやり過ごしていると林からストンと舗装された道路に出た!やったA1に戻れたよ〜でも、A1のどこだろう・・・多分‘右’と決めて少し走ったらなんのことはないバナナ村の前に出た。

安心したら急におなかがすいてきたのと同時に、大切なことを思い出した。去年も何回か迷って心細い思いをしたのと、そんなことで行動範囲が狭くなるのを嫌って今年は小型のGPSを持参してきていたのに、塩田などは近所だし必要ないだろうとホテルに置いてきてしまったのだ。そういえばそんなことは日常チャメシゴトだな〜まったく僕の学習能力の低さといったら救いがたい。