クリスマス島で唯一のダイビングショップ「Dive Kiribati」は大臣の事務所からほど近いラグーンに面した海辺にある。大きな軍艦鳥が10羽前後、凧のように風を受けて空に留まっている、その下にShopとキムさんの家がある。夕方近くに訪れた僕たちをキムさんの奥さんが暖かく出迎えてくれた。今年新しく来た犬の話で持ちきりなのだが、話し半ばでツボにはまったらしく笑いながら良く聞き取れない英語を連発するので、僕たちもビールを片手に笑うしかない。それにしてもキリバスの女性は良く笑う、それも何とも愛らしく楽しげに笑うので気持ちが良い。笑い疲れた頃にキムさんが戻ってきた。ここでタイドテーブルを見ながら1週間のスケジュールを決める。ちょうどこの日が満月だったので潮の動きは大きいが、どちらかというとその方がダイビングはやりやすい。

軍艦鳥(フリゲートバード)
:キリバス共和国の国鳥、成鳥の全長(幅)が2m以上にもなる大型の海鳥、雛が大人になるまで1年近くかかるので1年おきにしか繁殖できない。


キリバス共和国は赤道付近に東西4,000km、南北に2,000kmの広大な海の領土を持っている。その間を日付変更線が横切っているのだが、国の中で日付が変わるのは不便だと言うことで、領土にそって日付変更線を大きく迂回させる決定を5年程前に行った。(結果として21世紀を一番最初に迎える国家となった)その為、この島の時差は日本とは+5時間、ハワイとの日差が+1日と複雑だ。日本からクリスマス島に入る時には日付変更線を2回越えることになる、日曜日の早朝にホノルルを出発して、次の日の昼前に島に到着する。ということは今日は月曜日だ。この時差と日差攻撃でおおかたの人が日付感覚を失ってしまう。気がつくと日曜日になっている、ということにならないようにスケジューリングには注意しなければならない。本当は日付のことなど気にせずに、ボノボノとその日暮らしといきたいところなのだが、仕事もしなければならないのでそうもいかない、ちょっと悔しい・・・


この島の周辺はまだ誰も潜ったことのないポイントが無数にあるのだが、3種類に大別することが出来る。詳細は僕が運営しているDive Kiribati JAPANのWeb Siteを見て欲しいのだが、どのポイントもくせがあって面白い。ダイナミックなダイビングを求めるのであれば迷わずクリスマス島に行くべきだ。実はあまり知られていないがハゼ系のギンポ等も沢山いるのでマクロ系のカメラを持っている人にも十分に楽しめると言うところも魅力の一つだ。

今回のダイビングの目的は次の年のクリスマスカードの素材になる写真を撮ることにある。クリスマスカードのデザインはネット上で公募をして制作するが、現地の写真を使ったカードは僕にしか作れないので、毎年ネタになる写真を撮ることも大切な仕事だ。キムさんにイメージを伝え、撮影日と場所を決めてこの日はホテルに戻ることにした。とりあえず次の日は消印を押さなければならないので翌々日に一回潜って様子を見ることになった。

周辺の魚影は濃く、マンタ、ギンガメ、イルカ、アオウミガメ、etc なんでもありのスポットだ


椰子の木の影がゼブラ模様を描きだしているA1道路をホテルに向かってのんびり走る。風が心地よくて気持ちがいい時間帯だ。道ばたには学校を終えた子供達やおばさん達が円陣を作って座っている、手を振るとみんなが一斉に手を振り返してくる。やんちゃな男の子は車を追っかけてきたりするのでちょっと危ない。10分ほど走ると島で一番大きいテブアケア村の入り口が見えてくる、その手前の教会の脇を右に折れると僕のお気に入りの裏道がある。大方の予想通りその道はA2 という名前だが舗装はされていない。しばらく椰子林のなかの悪路を走ると真っ白で真っ平らな場所に出る。助手席ではトラが「ホントここ真っ白しかないよ〜 !!」とはしゃいでしまうぐらい珊瑚礁が風化した白い砂が延々と続く。雨でぬかるんだところや大きく掘り返された穴を避けながら夕日に照らされた真っ白をしばらく走ると椰子の林がまた見えてくる。椰子の林をしばらく走って適当なところを左に曲がると、ホテル傍のA1に出る。今年はここにアジサシのコロニーが出来ていた。

A2:舗装されていないこの道は珊瑚礁の砂だけで出来ている。


島は人が住み着くずっと前から海鳥達の楽園だった、軍艦鳥・カツオ鳥・熱帯鳥・アジサシ、全部で19種類の海鳥が確認されているが、その中でも一番大きなコロニーを作るセグロアジサシ(Sooty Tern)は300〜500万羽いる。ひと昔前までは2000万羽を越える生息数があったと言うから驚きである。減ったとはいえその数は圧倒的で見渡す限りの草むらの中にアジサシがうごめき合っている。彼らは地面に直に卵を産んで、その上から覆い被さるようにして卵を温める。蛇や猫科の猛獣がいないからこそ出来る芸当だが、最近は野生化した猫が増えているためその犠牲になるものも多い。また、子供が小遣い稼ぎで卵を乱獲するのも大きな原因となっている。自分達では食べないようなので、誰かが買い上げているのだと思うがなんとも痛ましい。セグロアジサシは外洋に出て小魚を捕り雛鳥にあたえるので、島の上空に鳥がいない場所を探すのは難しい。彼らは夜も飛ぶことが出来るので、波の音、椰子の葉が擦れ合う音そして鳥の声が、なにも無いこの島で音楽のかわりになっている。

小さい体にそぐわない鶏と同じかぞれ以上のサイズの卵を1つ産む。ヒヨコ大の茶褐色の雛は40日程度で巣立ちを迎える。

クリスマス島の音が聞こえます。


椰子の木立の中に沈んでいく夕日を見ながらホテルに着くとすでに夕食の準備が整っていた。初日のゲームフィッシングを楽しんできたアングラー達が猛烈な勢いで食事をしている。食事はバイキングスタイルでサラダ・肉料理・魚料理・デザートと6品ぐらいはあるだろうか、癖のない味付けの料理はどれを食べても旨い。昨年まではボイルされたロブスターがごろごろと並ぶトレーがあったのだが、今年はそれが見あたらない。聞くと、ハワイからバイヤーが来て大量に買い付けていってしまうので、ホテルでは手に入らなくなってしまったそうだ。ここのロブスターは伊勢エビに近い五色海老の類で大きなものは頭を合わせて軽く70cmを越える、それを簡単にゆでただけでバターの香りがする絶品の海老料理になる。島の人達は海老を食べる習慣が無かったので20年ほど前はホテルのビーチでも夜になればそれこそごろごろと海老が転がっていたと言う話を聞いたことがある。海老の代わりに名物になりそうなのはタコカレーだ、タコはホテルのビーチでも捕れるので、ぶつ切りになったタコがこれでもかと乱入している。タコの旨味とカレー のスパイスがマッチしてこれまた旨い。

この海老は頭が異常にでかいので、こんなに大きな海老でも尾の部分は全体の1/3程度しかない。ただ茹でただけで、何とも言えない甘みのある肉が楽しめる。


'アのレストランには8人がけの大きなテーブルしかないので、おのずと色々な人と話をしながらの食事になる。アメリカ人のアングラー達の大物を逃した話しを聞くのも面白いが、ビジネスやプロジェクトで来ている人達の話がとても参考になる。オーストラリアからはAUSAIDが、アメリカからはNASDAの依頼で環境調査の専門家が、そして日本からもJICAの専門家が来ていた。JICAから派遣されていた60過ぎのご夫婦はこれから2年をここで過ごすのだそうだ!AUSAIDのスタッフは、今の井戸を掘るプロジェクトは3年間かかると言って肩をすくめていた。こんな辺鄙な島になんとも色々な人がいるものである。


レストランの隣にはバーがあって、晩飯の後はそこで話の続きを楽しむのだが、ホノルル経由で時差ボケ気味の僕たちはバーをあきらめてさっさと寝ることにした。レストランの外に出ると大きな満月が椰子の木立の上にポッカリと浮かんでいて外灯もないのにとても明るい。部屋に戻って借りてきた消印の掃除をしながら今年もここまで来れたな〜としみじみとしていると、隣のトラの部屋から悲鳴がする。見に行ってみるとゴキブリがいただけだった。ゴキブリは可愛い方で、大きな野ネズミも沢山いるし、時期によっては手の平大のサソリが出るという話を聞いた。サソリだけあって刺されると危ないらしい。自分の部屋に戻ってベットの下をチェックしてサソリがいないことを確認して、歯を磨いていたらシャワールームからなにやらガサゴソと音がする。覗いてみるとシャワーパンに20cm程はあろうかという大きな赤手蟹がハサミを振り上げてこちらを威嚇している。シャワーパンに落ちてその10cm程の立ち上がりが越えられないのだ。お腹には卵を一杯に抱えているのでどこかに産卵に行く途中でここに迷い込んだらしい。

しょうがないので捕まえて波打ち際に連れて行く。海の音の低い轟きは夜になってもかわらずに続いている。その中を甲高い鳴き声をあげてアジサシが風にながされていくのがよく見えるほど月の明るい夜だった。

島には無数の赤手蟹が生息している。ホテルでは蟹料理は出ないが、島の人達は上手に料理して食べている。結構旨い。