Round 108.「草むらに入る」

本当はもっとそのチャンスはあった。だけど僕は、草むらが苦手だ。何があるのかわからないし、何が出てくるかわからない。バリ島での僕の服装は、いつもTシャツに半パン、それに草履だ。虫や得体のしれない植物や、ましてやなんだかわからないヌルっとした感触に遭遇することを思うだけで、「別にそんなとこ入らなくてもいいんじゃないの!?」と、完全に避けてきた。

だがそれはもう出来なかった。朝いつものように散歩に出かけた。場所はウブドゥ。今回のホテルはちょっと山側にあり、しかもすぐそばに川も流れていた。

朝は気持ちがいい。多少眠くても、起きてしまえばこっちのもの。僕はボサボサの頭のまま、半パン草履で散歩に出かけた。しばらく田舎道を歩いていくと、
そこはさすがにウブドゥ。絵描きたちのギャラリーがポツポツとある。しかもみんなこんな朝っぱらからコツコツと作品制作にいそしんでいた。

「グッド・モーニング!」なんて声をかけながら歩いていると、ひとりの人懐っこい絵描きさんが、「どこに行くの?」と声をかけてきた。「朝のジャラン・ジャランだ。」などと言っていると、「アユン川の入り口はこっちだ。」と、何故か案内をしてくれだした。

下りの道をずんずんと降りていく。両側にある民家の門の前から大量の犬が出てきて、見知らぬ僕らを見てギャンギャン吠える。絵描き男が「シット!」と声をかけると奴らはおとなしくなるので、こちらも真似をして「シット!シット!」と声をかけながらその坂道を下っていった。

すると小さな寺院が出てきて、そこはもう草むら。あ〜草むらはダメだかんね〜と、思いながらもずんずん進む彼のあとを付いていく。草の背丈が高くなり、
眺めのいい場所に出た。ゴーゴーと川の流れる音が聞こえる。音は聞こえるけど、川は見えない。そこから先はかなりの急勾配。どう考えても草履では降りていけなかった。ホッ。

視界の向こうにライス・テラスが広がる。太陽がジリジリと熱い光線を放し始める。草むらの中で僕は、今日一日何をしようかとぼぉ〜と考えている。