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 「ホリデー・シーズンはキャンドルの香り」
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ラジオからはエンドレスにクリスマス・ソングが流れ、リビングルームから見えるワイキキのホテルやコンドミニアムには、青や赤のクリスマス・ライトが飾り付けられて、ロマンチックに輝いている。
部屋のテーブルにグリーンのキャンドルを灯し、赤ワインを口にしながらそんなホノルルの夜景を見ているうちに、15年前のあるできごとを思い出した。その日も今と同じホリデー・シーズン。やはりひとりでキャンドルを灯し、ラジオから流れてくるクリスマス・ソングを聴きながら、ある人のことを思い出して携帯電話をじっと見つめていたのだった。
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アルバートに出会ったのは今から15年前、ワイキキにあるジャズ・バーでだった。その当時ボーイフレンドと別れたばかりの私は、友達のミュージシャンが出演していたこのバーにひとりでふらっと立ち寄り、心ここにあらず状態で音楽を聴くともなく、ただぼんやりと座っていた。するとウエイターが「これはあちらのお客様からです」と、赤ワインのグラスをテーブルに置いて立ち去った。ウエイターが指差したほうを見ると白人のハンサムな男性がこちらを見て微笑んでいた。「こんなシーン、よくアメリカの映画で見るなあ」と思いつつ、その彼に軽く会釈を送った。今自分に起こったことが半ば信じられない気分でありながら、ちょっぴり映画の中のシーンに突然自分が入り込んだような気分を楽しんだ。やがてミュージシャンが休憩に入ったとき、そのワインをプレゼントしてくれた男性が歩み寄ってきて「どうしたの、ひとりで?」と声をかけてきた。カリフォルニアから仕事でハワイに駐在しているという彼、アルバートは私より少し年上で、エンジニアだという。「せっかく音楽を楽しみに来ているのに、そんな悲しい顔をして、ひとりで座っていちゃダメだよ」とアルバート。ここのところ心が痛む出来事が続いていただけに、彼のそんなひとことがとてもうれしかった。その夜は、夜中近くまで彼とそのバーで語り合いながらジャズを楽しんだのだった。
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その日を境に、私はアルバートと頻繁に会うようになり、休みの日はビーチに行ったり、ドライブに行ったり、レストランで食事をしたりと楽しい日々を過ごすようになった。ところが出会って2ヵ月後、彼は仕事の都合で急にカリフォルニアに戻ることになり、夢のような楽しい日々は、まるでシャボン玉が割れるようにあっけなく消え去ってしまった。
そして3ヵ月後にやってきたひとりぼっちのホリデー・シーズン。彼に対する思いが断ち切れぬまま、自分の部屋でラジオから流れるクリスマス・ソングを聴きながらキャンドルの光をぼんやりと見ていた。片手に携帯電話を握り締め、彼がハワイにいたころに使っていた彼の携帯番号を知らぬうちに押し始めていた。むなしく鳴り響く呼び出し音。繋がるはずなどないのだからと電話を切ろうとしたそのとき、「ハロー」となつかしい声が聞こえてきた。まるで幻の声を聞いているかのように、それはまぎれもなくアルバートの声だった。
「あれ?どうして僕がホノルルに戻ってきたってわかったの?」とアルバート。「え?戻って来たの?」と驚く私に「そうだよ、たった今ホノルル空港に着いたところ。ホテルに落ち着いてから君に電話をして驚かそうと思ったんだ」と話し続ける彼のことばを、半ば信じられない気分で聞いていた。そう、彼は再びホノルルに戻って来たのだった、しかも今回は仕事でホノルルに腰を据えるという。私にとっては思ってもみない最高のクリスマス・プレゼントだった。
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しかし私とアルバートの関係は、それから4ヵ月後に再び終わりを迎えることになってしまった。彼の故郷、ベネズエラで両親が経営する会社を、彼の父親の体調不良のため、彼が継ぐことになってしまったからだ。「きっとまた会えるよね?」と念を押す私に、彼は「僕だって好きでこんなことを君にするんじゃないんだよ、わかってくれるね」と厳しい顔つきで、ホノルルを去って行った。それから2年、まったく彼からは音沙汰もなく、音信不通となってしまい、もうほとんど彼のことも私の心の中から消えかけてしまっていた。そんな春のある日、突然懐かしい声が電話の向こうから再び響いてきた。「アルバート?今どこにいるの?」とせっかちに聞く私に「ベネズエラだよ。どうしてもやはり君のことが忘れられなかったんだ。僕の母にも君のことを話したよ。だからここに来て僕と結婚してくれないかい?」。あまりにも唐突なプロポーズに言葉を失った私。でもベネズエラの母国語であるスペイン語も話せず、知り合いもまったくいない南米の地に、彼と結婚するために出向く勇気はなかった。悲しい気持ちでいっぱいだったが「ごめんなさい、それはできそうにないわ」と言ってそっと受話器を置いた。
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そんなアルバートとのやりとりを、ワインを片手にかつなつかしく思い出すクリスマス。過ぎ去ったことだけど、せつなくて甘い夢の中のような思い出。今ごろ彼はどこで何をしているのだろうか?幸せに暮らしているのだろうか。そんな思いにふけっていたら、テーブルの上に置いてあった携帯電話が突然鳴り出した。
「ハロー?あ、やっぱり15年前と同じ番号だったんだ!そうじゃないかなと思ったんだよ、元気?」とあっけにとられている私におかまいなくしゃべりかける懐かしい声。「ホリデー・シーズンになって君のことを思い出してさ、どうしてもハワイに来たくなったんだ」と無邪気に語るその声は、まぎれもなくたった今まで思い出にふけっていたその相手、アルバートだった。ちょうどそのとき、ラジオからは「Iユll be home for Christmas(クリスマスには帰るよ)」が流れ、部屋の中には15年前に再会したあの日と同じ、ウディーなキャンドルの香りが漂っていたのだった…。
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