ノスタルジックな街『ヒロ』は、アロハな香り

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 実に12年ぶりに訪れたハワイ島ヒロの街。以前は存在しなかった大型ショッピングセンターがいくつも建設され、やはり12年の歳月の流れを感じさせられる風景があるものの、ダウンタウンは昔ながらのノスタルジックな佇まいのまま。快晴に恵まれた滞在期間中、松の木越しに見える富士山ならぬ、ヤシの木越しに見える雪をかぶったマウナケア山が綺麗に見え、私の久しぶりの訪問を歓迎してくれているかのようだった。

 水曜の朝、ダウンタウンで早朝から開催される「ファーマーズ・マーケット」の朝市に出かけてみた。たくさんの屋台の上に、新鮮な野菜が並んでいる。中にはゼンマイや白菜、ごぼうなどの日本野菜もある。私たち日本人にとっては珍しいカカオの実や、ランブータンというライチのようなフルーツなどを見ていると「日本から来たの? みかん食べる?」と日系人風のおじいさんが、突然冬みかんを差し出してくれた。きょとんとしている私に、こんどはその後ろかやって来たおばあさんが「飴食べる?」と飴を差し出した。ヒロの人たちって、知らない人にでもこうやって簡単に声をかけてきては、物を与えてくれるのだろうか? でもこのみかんと飴がきっかけで、私はこのふたりとしばしの時間を過ごすことになった。
 みかんをくれたロナルドさんは、沖縄日系2世の90歳。その年齢には見えないほど、元気でかくしゃくとしている。そして飴をくれたおばあさんはやはり沖縄系で84歳のヨシエさん。ふたりはヒロ沖縄会のお友達で、よく一緒に早朝のマーケットにやって来る。私がホノルル在住だけど、もともと日本からだと知った彼らは「ちょっとお茶でもしませんか?」と誘ってくれ、「ハワイアン・スタイル」というコーヒーショップに入ることにした。

 そのコーヒーショップで「コーヒーを3つください」と注文すると、ハワイアンのおじさんが、てんでバラバラのサイズの紙コップを3つ差し出しながら「そこにあるポットから好きなだけ入れてくれ」と言った。「おじさん、コップの大きさが違うよ」と尋ねると、「そんなこと気にしてないさ」とニヤッと笑った。なんともざっくばらんなハワイアン・スタイル。まさに店名のとおりだ。「いくらかしら?」「えっと、3個だから$3!」と消費税がつくこともなく、これまたおおざっぱ。なんだか嬉しくなってしまった。
 テーブルに腰をかけて待っていたロナルドさんとヨシエさんのもとにコーヒーを運んであげると、ふたりは待ってましたとばかり、昔話を始めた。ロナルドさんは若い頃、さとうきび畑で労働者をしていて、かなりの苦労を積んだ末、自分で土地を買ってさとうきび園を作り、ビジネスに成功したのだとか。今は息子にその経営をまかせて隠居生活を楽しんでいる。一方ヨシエさんは60年前に沖縄からヒロに嫁に来たものの、「どうしてこんなところに来たのかしら?」と、知り合いがひとりもいない街で、寂しい思いをしたのだそうだ。しばし彼らの思い出話を聞くうちに「これから私の家に来ないかい?」とロナルドさんが自宅に招待してくれることになった。

 ヨシエさんと一緒にロナルドさんの運転でヒロの街外れにある彼の家に出かけた。大きな敷地には、みかんの木をはじめ、マンゴ、パパイヤ、パイナップル、バナナ、タロ芋などあらゆる野菜や果物が植えられていて、これを全部ロナルドさんがひとりで世話しているというから驚きである。自宅ではやはり沖縄系の彼の奥さん、ハナエさんが大歓迎をしてくださった。自宅で取れたフルーツはもちろんのこと、手作りのお饅頭やケーキまで登場し、「たんと食べて帰ってね!」とテーブルの上は食べ物で覆い尽くされてしまった。会ったばかりの人間をこれほど暖かく迎えてくれる人に、今まで私は出会ったことがない。
 歓談しながら食事をしていると、「ロナルドさん、いただきますよお〜」と庭から誰かが声をかけてきた。外を見ると3人の老婆が立っていた。「お好きなだけどうぞ」とロナルドさん。「いったい何なのかしら?」と不思議そうに聞く私に「庭にできたみかんを取りに来たんだよ。いっぱいあるからの」。「みんなこうやって勝手に取りに来るんですか?」「だって、ふたりだけじゃ食べきれんじゃろう。自分たちが必要なだけ取ったら、あとは欲しい人に分けてあげるのが、ハワイのスタイルなんじゃよ」と語るロナルドさんの横で、妻のハナエさんも微笑みながらうなずいていた。「ここは昔からそう、今もそうよ、取れたものは自分だけでひとりじめせずに、みんなで分け合うの」とヨシエさん。最近、特に日本では失われつつある、古き良き時代の風習がこのヒロには今も残っているのだ。

 親切にもてなしてくれたロナルドさんたちにお別れをする時間が来た。ほんの数時間一緒にいただけだったが、彼も奥さんもそしてヨシエさんもみんな「知り合ったばかりだけど、なんだかとても寂しいわ。またきっと来るのよ。もう友達なんだからね」と、それぞれが固く抱きしめてくれた。そして私の手には持ちきれないほどのみかんやお饅頭などのお土産でいっぱいになっていた。
 ヒロからホノルルに戻って1週間後、郵便受けを開けると1通の手紙がヒラリと手に落ちた。差出人を見ると、なんとヒロのロナルドさん。孫にもらったというデジタルカメラで写したあの日の集合写真が同封されていた。みんなの満面の笑顔が写った写真からは、暖かい思い出と共に、最高のアロハの香りが漂ってきた。