「ウィローズのバーボンは、恋の香り」

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 ホノルルのワイキキから程近い「モイリイリ」と呼ばれる地区に、「ウィローズ」というレストランがある。住宅街の中に突然現われるこのレストラン、もともとは普通の家であったのを1944年にレストランとして改造し、以後代替わりはしたものの、緑豊かな庭やカヌーをほどこしたデコレーションなど、ポリネシアン・スタイルのワンダーランド・レストランとして地元では人気が高い。

 この「ウィローズ」のバイキングに久しぶりに出かけてみようと友達のマーシーを誘った。「ここはバイキングだけど、カレーがおいしいのよね!」とマーシーが言うように、ここのカレーはなぜか有名。チキンとシーフード2種のカレーがいつも用意されている。このほかに、ロミロミ・サーモン、カルアピッグ、ポイなどのハワイアンフード各種、巻寿司、そばなどの和食、サラダやローストビーフ、そして豊富なデザートなど、バラエティ豊かなバイキング・メニューで、ここに来るといつも軽く2時間は過ごしてしまう。

    

 マーシーがワンラウンド目のお皿を「サラダ、ロミロミ・サーモン、キムチ、パン」でいっぱいにして戻って来た。着席してサラダをほうばりながら「ここってハワイ島のヒロ出身でキャサリン・ペリーっていう女性の両親のお家だったのよね、もともと」とマーシー。「でさ、彼女が一時はこのレストランを切りまわしてたんだけど、結局経営に行きづまって1980年に手放しちゃったんだよね。でも新しいオーナーも結局クローズ。でもここって人気があるから、また違うオーナーが1999年だったかしら、再開してこの通り大繁盛よ!」。「あなたやけに詳しいのね」と不思議がる私にマーシーは「えへへ、実は、一時ここのバー・カウンターで夜アルバイトしていたの。」と告白した。

 マーシーが「ウィローズ」のバーでアルバイトをしていた時、毎晩バーを訪れるひとりの初老の男性が居たのだそうだ。男性の名前はジョージ。必ずバーボンをオーダーする彼は、ハワイアンのライブ演奏に耳を傾けながら、マーシーに「ウィローズ」の歴史やオーナーのキャサリンについて語って聞かせたのだそうだ。「詳しいのね」とマーシーが言うと「ああ、若かった頃にここで働いていた女性に恋をしてね。こうやって毎晩バーに来ては、彼女が僕のことに気づいてくれるのを待っていたのさ、もう40年以上も前のことだけどね」とジョージ。そしてある夜、ついにその女性が仕事を終わるのを待って、バー・カウンターで告白したのだそうだ。すると彼女はすまなさそうにジョージの顔を見て「ありがとう、とっても嬉しいわ。でも私来週カリフォルニアの両親の家に戻ることになったの。大学を卒業したから父の仕事を手伝うことになったの」と言いながら、空になっていたジョージのグラスにバーボンの水割りを注ぎだした。ジョージは氷がグラスの中で音を立てながら溶けて行くのをうつろに眺めていたのを覚えているという。まるで自分の恋も音を立てながら溶けてしまったように。

 「ふーん、つらい恋だったんだね。でもなんとなくロマンチックだなあ」と私が言った時、隣の席に座っていたカップルの男性が「あの、僕実は…君のことが…好きだったんだけど」とバーボンの水割りを片手に、告白を始めていた。そのグラスの氷が、ジョージの時のように彼の恋と共に虚しく溶けてしまわないことを願いながら、マーシーと私は、相手の女性の返事をその男性と一緒に息を殺して見守った。しばらくの沈黙が続いた後、その女性は、はにかみながら答えた。「初めてあなたに会った時から、私もあなたのことが好きだったのよ」と。ふたりの恋に熱くなったのか、グラスの中の氷が歓喜の音を立てながら、溶けはじめていた。