マーシーが「ウィローズ」のバーでアルバイトをしていた時、毎晩バーを訪れるひとりの初老の男性が居たのだそうだ。男性の名前はジョージ。必ずバーボンをオーダーする彼は、ハワイアンのライブ演奏に耳を傾けながら、マーシーに「ウィローズ」の歴史やオーナーのキャサリンについて語って聞かせたのだそうだ。「詳しいのね」とマーシーが言うと「ああ、若かった頃にここで働いていた女性に恋をしてね。こうやって毎晩バーに来ては、彼女が僕のことに気づいてくれるのを待っていたのさ、もう40年以上も前のことだけどね」とジョージ。そしてある夜、ついにその女性が仕事を終わるのを待って、バー・カウンターで告白したのだそうだ。すると彼女はすまなさそうにジョージの顔を見て「ありがとう、とっても嬉しいわ。でも私来週カリフォルニアの両親の家に戻ることになったの。大学を卒業したから父の仕事を手伝うことになったの」と言いながら、空になっていたジョージのグラスにバーボンの水割りを注ぎだした。ジョージは氷がグラスの中で音を立てながら溶けて行くのをうつろに眺めていたのを覚えているという。まるで自分の恋も音を立てながら溶けてしまったように。