「ノースの夕暮れはロマンチックな南国の香り」


             
   
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 「きょうのランチは何を食べる?ロコモコ?」と、日系の友人ギルバートとリネイがやや遅めのランチに誘ってきた。ハワイにはここにしかない不思議食べ物が色々とある。各国の文化が融合した土地ならではの食文化だ。でも、きょうはなんとなくゴチャゴチャッとしたものよりも、あっさりとした食事がしたくて「うーん」と考えこんでいた私に「ハワイに住んで何年になるっていうの?そろそろハワイの食べ物に愛着を感じなさいよ!」とリネイ。
 私たちを乗せたギルバートのピックアップ・トラックは、私の願望とは裏腹に、カイムキ地区にあるローカル・ドライブインに到着。ギルバートとリネイは、当然のごとく「ロコモコ」を注文した。ロコモコは、ローカル・スタイルのなんでもOKプレート・ランチ!ライスの上に、ハンバーガー、目玉焼きがのっていて、その上にグレービーという茶色くて粉っぽい、どろっとしたソースがたっぷりとかけられ、キムチが添えられていたりする。すごいボリュームだ。ギルバートとリネイは、これらを全部かきまぜて、ぐちゃぐちゃ状態にしてしまっている。「こうやって食べるのが最高に「オノ!(おいしい)」なのさ!」と。
 あっさり派の私は「サイミン」を注文。サイミンは一見、普通のラーメンだが、懐かしいピンクの渦巻きナルトのかまぼこが入っている。ダシはラーメンのダシではなく、蕎麦ダシのように、鰹で取ったあっさりダシ。中国と日本の文化がドッキングした、不思議なテーストだが、なかなかこれがおいしい。

    

 ランチの後、やや眠けがもよおした私とリネイを乗せたギルバートのトラックは、ダウンタウンへとさしかかった。ビジネス街であるダウンタウンの一角には、賑やかな中華街もあり、市場、生鮮食料品店、漢方薬、レストランなど、ほんとうにミニ中国といった風景が目の前に広がる。突然トラックをある小さな店の前で横付けにしたギルバートが「マナプアを食べよう!」と言い出した。「え、さっきランチを食べたところじゃないの?」という私に、「これからノースまでドライブするんだからさ!」とギルバート。「え?ノースまでドライブするの?そんなこと聞いてない!」とぶつぶつ文句を言う私をトラックに置き去りにし、ギルバートとリネイは「マナプア」を買いに行ってしまった。「マナプア」は日本の肉まんに等しいが、なぜか中身の肉は赤く着色されていて、ほんのりと甘味がある。そして外側の白い皮の中央に、なぜか赤い印鑑で押したような印がついているのも特徴だ。

 「マナプア」をほおばりながら、私たちはノース・ショアへとようやく向いだした。広大なパイナップル畑を通りぬけ、大海原が広がるノース・ショアが目の前に見えて来た頃、心地よい潮風とパイナップルの甘酸っぱい匂いに包まれて、ハワイに居ることを実感!ちょっぴり幸せを感じ始めながらトラックの窓を全開にし、風を顔いっぱいに浴びてみた。ちょうど降り始めたシャワーが私の顔をなでるように落ちてきて、そのシャワーの向こう側には大きなダブルレインボーが、パイナップル畑を包むように登場した。
その時、「ねえ、喉が渇いた!」と、こんどはリネイがブツブツ言い始めた。「じゃあ、どっかでジュースを買おう!」とギルバート。「お手洗いも行きたいから、ちゃんとした店に入りたい!」とリネイ。結局、しばらくウロウロしながら、ノースで人気のレストラン「ジェーミソンズ」で「プランテーション・アイス・ティー」を飲むことに話がまとまった。紅茶にマンゴとパイナップル・ジュースが入った、とてもハワイらしい、甘くてさわやかなドリンクだ。

「プランテーション・アイス・ティー」を飲みながらひと息ついた頃、遠くを見やっていたギルバートが「あ、あそこでフリフリ・チキンやってる!」と道の反対側30メートルほど先にある空き地を指差した。そこには何人ものローカルのおじさんたちが、炭火の上で鶏をクルクルと回しながらローストする、ハワイ式焼き鳥「フリフリ・チキン」を作っていた。どうりで、香ばしい匂いがたち込めて来たはずだ。「あれ買って帰ろうよ!今夜の夕食はフリフリ・チキンに決まり!」と嬉そうにギルバート。まったく食べることばっかり考えてるヤツだなあ!とあきれ顔で彼を見つめていると、トレイから戻ってきたリネイが、どこで見つけてきたのか、白いプルメリアの花を髪の毛に挿していた。
窓際の席に座った彼女が、海を見つめながら長い黒髪をなびかせて、アイスティーを飲むその姿が、夕陽の中でシルエットとなり、まるで切り絵でも見ているかのように美しかった。どうやらきょうのノース・ショアは、フリフリ・チキンの香りと、彼女が髪に挿したプルメリアの甘い香りがブレンドされて、南国情緒たっぷりに暮れてゆくことになりそうだ。