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 「チャイナ・タウンはベトナム・コーヒーの香り」
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ホノルルのダウンタウンにあるチャイナ・タウンは朝が早い。午前7時にはもう買い物客で賑わい始めている。野菜、カラフルな魚などの生鮮食品から乾物、雑貨まであらゆるものが並んでいるマーケットや露天商など、見て歩くだけでも楽しい。何の目的も持たずにぶらぶらしながら、「マナプア」と呼ばれる豚まんをほうばったり、お店の人と値段の交渉をしてみたりできるのも、チャイナ・タウンならでは。言葉も中国語やベトナム語が飛び交っていて、ときどき英語が通じないこともある。そんなときには身振り手振りで説明しあったり、紙に漢字を書いてみたり。まるで東南アジアの市場に迷い込んだような気にさせてくれる。
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そんな賑やかで楽しいチャイナ・タウンにあるピンク色のビルの奥に、偶然カフェがあるのを見つけた。
私はここでたっぷりとコンデンス・ミルクが入ったベトナム・コーヒーを飲むことにした。
1人用のコーヒー漉しの中に入れられたコーヒーの粉をゆっくりとお湯が通って下のカップに落ちる。下のカップにはコンデンス・ミルクがあらかじめ入っているので、コーヒーの温かみでそれが溶けて、コクのあるミルク・コーヒーが味わえる。テーブルに座って、コーヒーを楽しみながら店の反対側にある歩道を行き交う人々をなんとなくながめて時間を過ごしていた。するとこの店のオーナーで、まったくの白人ながら中国人と結婚したので「チャン」というラストネームを名乗るというエミリーさんが私の横に腰をおろしながら話しかけてきた。
「このあいだね、テレビのケーブルの具合が悪くって、工事の人を呼んだのよ。そしたらなんとこのビルの地下にトンネルがあることがわかったの」っと、なんとも興味深い話をしはじめた。
なんでもこの建物の下にあるトンネルは港に通じているらしく、かつて中国人たちが船で麻薬密輸入するために、港から陸に上がることなく、トンネルを使って上陸していたのだとか。そういえば、チャイナ・タウンには今でも土地を掘り起こすとアヘンを入れていた容器などがたくさん出てくると聞いたこともある。
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「なんだか映画の中の話みたいね」と答えると、「そうね、南太平洋の真中にありながら、ここだけはまったく違った世界を感じるわね。東南アジア人だけじゃなく、私みたいな白人もいるし、そういう人たちがまた違う国の人と結婚して、どんどん文化も人種も混じり合ってきたのよね。ある意味では映画以上のドラマだわ」。そういいながら、今入ってきたばかりの客に注文を聞きに立ち去ったエミリーさんを目で追いながら、香りの高いベトナム・コーヒーを再びゆっくりと口に含んで味わっていた。するとその時、私の座っていた席の横にあった壁の中から誰かがしゃべる話し声が聞こえた。それが中国語であったり、ハワイ語であったり、ベトナム語であったりと、いろんな言葉が混じり合って聞こえる。
聞き耳を立てていると「あら?聞こえたのかしら、話し声が?」とエミリーさん。「隣の部屋に誰かいるのですか?」と聞くと「いいえ、隣には部屋はないの。隣は別のビルの壁なのよ。でもいつも声がするのよね、壁の中からいろいろな言葉の。夜は特にひどいわよ。でもこの土地には疫病で亡くなったハワイアンもたくさんいたらしいし、麻薬中毒で亡くなった人、火災でなくなった人など多いって聞くから、仕方ないわね」と肩をすくめながら店の奥へと消えていった。どうやらチャイナ・タウンは、街の雰囲気だけでなく、幽霊まで異国情緒満点らしい。
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エミリーさんの店を後に、さらにチャイナ・タウンの散策を続けていくうちに、おなかがすいたので、いつも行く中華レストランで飲茶を食べることに。顔見知りのマネージャーのリーさんがやって来たので注文をしながら「今日ね、あのピンクのビルの中にかわいいコーヒー・ショップを見つけたわ」と得意げに話すと、リーさんが怪訝な顔をした。エミリーさんのことを彼に話して聞かすうちに、リーさんの顔がだんだんどこわばってきて、話を聞き終えた後にこうつぶやいた。「そのエミリーって、100年以上昔ここで布教活動をしていて流行病にかかって亡くなった白人女性じゃないかな?それにピンクのあのビルにはコーヒー・ショップなんてないよ!」と。一瞬背筋がぞっとしたものの、その次の瞬間にはベトナム・コーヒーの香りとともに異国情緒たっぷりな話を聞かせて楽しませてくれたエミリーさんに、「ありがとう」と心の中で感謝したい気持ちでいっぱいになった。
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