「ビッグウエーブは冬の香り」

 日曜のランチ・タイム、オアフ島の東側を北上してカフクのガーリック・シュリンプでも食べに行こうかなと思っていた時、ロコの友達のカラニから携帯に電話が入り、今日のノースの波はなかなかのものだから見に来るべきだという。彼はすでに冬のハワイの名物でもある、ノースショーアのビッグウエーブに朝から挑戦しているらしい。オアフ島は毎年11月になると、数多くの世界的なサーフィン大会が幕開けとなり、以後数ヶ月にわたって、ビッグウエーブの季節となる。

車がノースの入り口にもあたるサンセット・ビーチ付近にさしかかったあたりから、空全体に海からの水しぶきが、まるで霧のように広がっていて、今日の波の状態がワイルドであることを、物語っていると同時に、今年もハワイにビッグ・ウエーブの季節がやってきたことを知らせる潮の香りがあたり一面に漂っていた。カラニはいったいどこにいるのかしらと駐車場から沖を見やると、パイプ状にうねりながらやってくる波の合間に彼の黄色いサーフボードを発見。巧みに波と踊っている彼の姿がそこにあった。

子供の頃からノースの海で育った彼には、目をつむっていても海の中の地形が頭に入っていて、どこにどんな岩があるのかもわかってしまうらしい。また、水の透明度からもその日の海流の状態を読むことができるのだと、以前自慢げに話してくれたのを思い出した。ハワイアンは、古代から自然を崇拝しながら暮らしてきたので、子供の頃から、自然について学ぶのはあたりまえのこと。ハワイアンの血が流れているカラニも、当然のことながら、ハワイの自然を体で学びながら育ってきたのだ。「君に電話をかけたときは、もっと波が高かったけど、今はちょっとフラットになっちゃった!」とサーフボードを抱えて海から上がったカラニは、私の横に座りながら今まで波乗りをしていた広大な海を見やった。
「どうしてハワイにはこんな大きな波が来るのかしらね?」という素朴な私の質問に「それはハワイがある位置だよ。北太平洋で生まれた幾つもの荒波が、ハワイに到達する頃、波の形がサーフィンにとって、最高のコンディションになるのさ」とカラニ。

サーファー達がよく、波待ちをして沖でぷかぷかと浮いているのを見かけるが、これも波が綺麗に崩れるポイントを探して、そこに行って波待ちをしているポーズなのだそうだ。「波をじっと見ているとある一定の法則で動いているのが読めるんだよ。海岸に近すぎても、沖に出すぎてもだめなのさ。ちょうど良いポイントを探して、そこで最高の波が来るまで待つんだよ」と言いながら、波のコンディションが変わり始めたことに気がついたのか、あっという間にボードを抱えて、また海の中に消えて行ってしまった。

 サーファーには波に戦いを挑むタイプと波に身をまかせてしまい、自然と一体になってサーフィンを楽しむタイプがあるらしいが、カラニはハワイの広大な自然に身をまかせ、ビッグウェーブと一体になっているのが見ていてもよくわかる。壁のような高さがある大波を次々と乗りこなす彼の姿が、雲の合間から差し込む太陽の光にまぶしく輝いて、それはまるでビッグウエーブと踊り、戯れる凛々しい波の精のようだった。