ハワイアン・ラブ  - プルメリアは恋の香り-

シャワーが通り過ぎた黄昏時のハワイ。久しぶりにジープを飛ばしてビーチへ向かう。昼間の熱気と喧騒が過ぎ去って、ひんやりとした空気に包まれるこの時刻のビーチが僕は一番好きだ。ウクレレを片手にいつものヤシの木の下で、ただなんとなくメロデイーを奏で始める。こうしていると、僕がまだ小学生だった頃に出会ったある老人のことを思い出す。


彼もいつも夕暮れ時になると、この辺りに座りながらウクレレを奏でて海の彼方を見やっていた。ある日、僕がブギボード遊びに疲れてビーチに上がり、顔馴染みだった老人の横に座って休んでいた時のことだった。「なあ坊主、わしがおまえよりほんの少し年が上だった頃、ここでこうしてウクレレを奏でていると、髪の長いとても美しいハワイアンの少女がよく現れてな、わしの歌に聞き入ってくれたもんじゃった。わしはその少女に恋をして、毎日ここに座っては彼女のために歌を歌って聞かせたさ。でもな、わしが16才の誕生日を迎える前日、彼女に自分の気持ちを伝えたんじゃ。すると彼女は自分が首から掛
けていたプルメリアのレイをそっとわしの首にかけてくれた。わしはそれを彼女が愛を受け入れてくれたものと思って、目をつむって彼女に初めてキスをしたんじゃ。ところが目を開けてみると、もうそこに彼女はいなくてな。空の方から声が聞こえたんじゃ。

『あなたは忘れてしまったのね。その昔、私達が今のようにやっぱり恋人同士だった頃、あなたは18才になるまで私にキスをしてはいけないと言う火の女神の命令にそむいてキスをしたために、私はプルメリアの花に姿を変えられてしまいました。18才になる前にキスをすると、私達の愛は、火の女神が好むような激しい大人の恋となって燃えることなく終わってしまうから、タブーなのよ。せっかくまた生まれ変わって再びあなたの恋人になれた思ったのに、あなたは火の女神との約束をまた忘れてしまったのね。今度再びいっしょに生まれ変わった時、もう一度ここで会いましょう。その時はきっと女神との約束を守って二人の愛を実らせましょうね。』と。その声のする方を見ると、一羽のかもめが悲しげに鳴きながら飛んでいくのを見たんじゃ。彼女はそれっきり、わしの前には現れなんだ。」そいういって老人は寂しそうに空を見上げた

 もしかすると、もう何百年も前から、その老人はここでこうやって、同じ女性との愛を何度も成就できぬまま、生まれ代わるたびに繰り返し繰り返し、ラブソングをこのビーチで奏でていたのかもしれない。そう思いながら、ぼんやりと黄金色に染まった夕陽に映えるビーチに目を落とした時、そこに裸足の女性の足を見つけた。視線を徐々に上へと向けると、プルメリアの花を長い髪にさりげなく挿した、僕の彼女が微笑んで立っていた。夕焼けに輝いてたたずむ彼女を抱き寄せた。プルメリアの甘い香りを漂わせている彼女と寄り添っていると、なんだかとってもロマンチックな気分になって、熱いキスを交わそうとして、ふと気がついた。「キスをするのは明日までとっておこう。僕は大人の恋を、あのハワイアン・サンセットよりも、もっと赤く燃える恋がしたいから。」と彼女にささやいた。明日、僕は18才の誕生日を迎える。