「黄昏のディナー・パーティーは、ソイソースの香り」

 久しぶりにオアフ島の東、ハワイカイ地区にあるとっておきの秘密の場所にやってきた。ここは、住宅地の裏を通り抜け藪の中を突き進んで、崖を登りきった所にある。一般の人にはあまり知られていないこの岸壁に立つと、太平洋が見渡せる。ここに来て思いっきり深呼吸をしてみるのが、私は大好きだ。水平線をじっと見つめているだけで心が落ち着き、日頃のストレスやモヤモヤを広大な海が取り除いてくれる。いつだったか、ここで出会ったハワイアンのおじさんに「海はハワイアンを守り、力づけ、励まし、生命力を与えてくれる」と話していたが、ここに来るたびにまさにそれを感じる。自然の偉大さと、美しさを尊びながら、その中にうまく溶け込んで暮らして来たハワイアンの生活は、海なしには語れないのだ。

 ふと少し離れた所に目を向けると、釣りをしている少年と父親がいた。ちょうど鮮やかな黄色い魚を釣りあげたところだった。この太平洋のリーフに棲む魚は、その棲む場所によってそれぞれの魚の特色があり、ユニークな形やカラフルものが多い。その少年に釣られた黄色い魚、バタフライ・フィッシュは、午後の太陽を受けてキラキラと宝石のように輝いて見えた。少年は、魚を釣り竿から取り上げると、ポイと海の中へ投げ返した。
不思議そうに見ている私に、彼はこう言った。「僕は、ただ釣を楽しんでいるだけさ。持って帰ったり、食べたりする気もないから、海に返してやるのさ」。なんだかとっても暖かい少年の心を感じて、嬉しくなってしまった。

 ちょうどその時、私の後ろで「そろそろバーベキューをやるから、戻って来いよ!」と叫ぶ声がしたので振り返ると、なんといつかここで出会ったあのおじさんが立っていた。
「あ、また一人で来てるのかい?」とおじさんは私を覚えていたらしく、歩みよって来た。
どうやらこのおじさんは、さっきから釣りをしていた少年の親戚のおじさんらしい。「君もよかったら、来ないかい?下にある俺の家で、今からバーべキュー・パーティーをするから」と誘ってくれた。

 そのおじさんの家の庭からも、一面に海が見渡せた。ちょうどサンセットの時刻となった海は、黄金色に輝いて見えた。さっきのおじさん、ケオニは「レストランで食べる料理よりも、海辺のキッチンでサンセットを見ながら食べるバーベキューが最高さ!」と言いながら、バーベキュー・コンロの上に次々と新鮮な魚介類や野菜を並べていった。黄昏のディナー・パーティーは、素朴でありながら、ワイキキのどんな高級レストランでも味わえないような、贅沢な材料でなつかしいしいような香りが漂う中、最高の景色付で始まった。そして、見ず知らずの私をゲストに迎えてくれたケオニおじさんとその家族の心の広さと暖かさが、バーベキューの煙以上に、私の心にしみわたった。

 「さあ、海老が焼けたよ。ここにちょいとソイソース(しょう油)をたらして、できあがり!」とおじさは、私の紙皿に焼きたての大きな海老を投げいれた。バーベキュー・コンロの上では、赤い色や青い色、そして黄色いシマの入った魚など、私には名前のわからない魚が次々と料理され、仕上げにおじさんがふりかけるしょう油の匂いがあたり一面を覆い、この黄昏ディナー・パーティーにとっておきの香ばしさを添えている。「おじさん、このお魚全部チャイナ・タウンで買ってきたの?」と聞くと「おいおい、俺だってハワイアンの血が流れているんだぞ。フィッシングは子供の頃からずっとやっているんだ。チャイナ・タウンなんかに行かなくったって俺にとってはこの海が自然のフィッシュ・マーケットさ。500種類近い魚がハワイにはいるんだ。この魚は俺が今朝、カネオヘ湾で釣ってきたのさ」とちょっぴり自慢げに話してくれた。ハワイでは昔から、いい猟師であることが、強い男性の象徴のように思われ、釣り針もその昔は優れた猟師や位の高い人の骨で作っていたのだと、おじさんは教えてくれた。

 陽はとっぷりと暮れ、バーベキュー・パーティーの宴もたけなわ。おじさんはウクレレを取りだして、なにやらラジオから流れているハワイアン・ソングにあわせて歌いながら盛り上がっている。さっきの少年は、庭の端のビーチに釣り竿を突き立てて、闇の中に糸を垂らしていた。きっといつか、おじさんみたいな腕のいいハワイアン・フィッシャーマンになることを夢みて頑張っているのだろう。私は、紙皿にのせられた一切れの魚を口に運びながら、いつかこの少年が自慢そうに釣った魚をバーベキューしている姿が目に浮かんだ。